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【中川町ローカルベンチャースクール】最北の地で働くということ/西村佳哲さん

どこで、だれと、何を?自分の仕事や働き方をめぐる4時間

12月10日に開催された中川町ローカルベンチャースクール。今回はリビングワールド代表であり、プランニング・ディレクター、働き方研究家の西村佳哲さんが講師として北海道に来てくださいました。

 

中川町ローカルベンチャースクール

 

今回の内容は4時間と長丁場。4時間もの内容、頭に入るかしらと若干不安を覚えながら早速スタート。

 

 

『仕事や働き方は生き方と背中あわせ。誰かから教わることではないと思う』

 

ローカルベンチャースクール/ローカルベンチャースクール/西村佳哲さん

 

こう、ひとつ前置きをした上で西村さんが話し始めました。この4時間は西村さんが考えることを伝えるだけでなく、改めて自分の働き方について考える時間を作る機会。

-目次-

ひとつめのワークは漢字発見ゲーム

突如始まる漢字発見ゲーム。下記の図の中に感じはいくつあるのか?思いつく限り書いてみる。最初は一人で、その次は3人一組で、最後は6人で。

 

漢字発見ゲーム。この中に漢字は何個あるか

 

一人で見つけられた最大数は20個、3人だと32個。6人で考えると45個に増えました。最高数に届かないとしても、どのグループも人数が増えればその分発見できる感じが増えた様子。このワークを通じたメッセージは、『自分一人でできること、考え切れることには限界がある』ということ。一人の優秀な人がどんなに頑張ってもグループ、複数の視点を持つことはできないということでした。

 

自分の仕事、働き方について深掘りしてみること。この会場に人の視点を活かしながらより立体的に考える機会にするということ。

 

働き方の研究のはなし

<働く上で、働き方は重要>

会社員時代にオフィスプランニングのチームで活動していた際、パーテーションの高さやパントリーの位置を変える、ブリーフィングボードの位置を変えるだけでグループのコミュニケーションが変わった事例を見た西村さん。

 

ローカルベンチャースクール/西村佳哲さん

 

『他の人と違う結果を出している人はどんなやり方をしているのか』

他の人と違う結果を出している人はどんなミーティングで、どんな食事をとっているのか。自分の働き方を作り出す人はどうやっているのか。そんな部分が気になりパタゴニアの社長や柳宗理さんなどはなしを聞いてまわったそうです。

 

『才能、センス、運、それだけじゃなくてそれ以上にやり方が違うのではないか。仕事の進め方やコミュニケーション、プロセスの経験が違うのではないか』

 

西村さんの中にある仮説。メジャーリーグで活躍中のイチロー選手や映画『グランブルー』のロケチームなどを例に出しながら、そう話します。

 

『そういった人たちが最初に作っているものはモノじゃなくて、それ以前に関係性や、そのモノが生まれてしまう環境、やり方、チームのコミュニケーションをつくっているのではないか』

 

そういった仮説をもとにインタビューして回った結果、見事にその通りだったとのこと。

仕事を自分の仕事にする

デザイナーの仕事はクライアントワークも多い。いわゆる請負の仕事をしていく上で、自分に起点がない仕事でもそれを<自分ごと>にしていく人たちの姿があります。

 

仕事を自分の仕事にする、ということはどういうことなのか。

 

西村さんの著書の中でも紹介されている仕事の階層の話。

西村さんが考える仕事の階層

知識や技術のみで作られたモノはより安い、より便利なモノが登場すると乗換が可能なものが多い。知識や技術、考え方や価値観、あり方や存在の連動でつくりあげられたモノは替わりのきかないモノとなる。

 

ジブリのアニメーションや、アップルコンピューターの商品などを例に出しながらこのように説明する西村さん。

 

知識や技術だけを身につけて社会に出ると、仕事はできるが自分よりも強力な力を持つ人の道具に簡単になってしまう。それは代換が可能な存在になってしまう可能性があるということ。この図のような連続性を育んだ人は、仕事を通じて自分の存在価値を他にも、自分でも感じることができる。

 

 

<いい仕事>とは何なのか?

それではいい仕事とは何なのか?

 

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人をバラバラにする作用を持つ仕事、人を統合させて繋がりをはっきりさせていく働きを持つ仕事、人をどうでも良い気持ちにさせる仕事など、生活のなかでは世の中にある『誰かの仕事』の結果に触れ続けていくこととなります。

 

西村さんの著書である『自分の仕事をつくる』という作品の前書きに描かれている一文。

 

たとえば安売り家具屋の店頭に並ぶ、カラーボックスのような本棚。化粧板の仕上げは側面まで、裏面はベニア貼りの彼らは、『裏は見えないからいいでしょ?』というメッセージを、語るともなく語っている。建売住宅の扉は開け閉めのたびに薄い音を立てながら、それを作った人たちの『こんなもんでいいでしょ?』という腹のうちを伝える。

自分の仕事をつくる より抜粋

 

 

書かれていないから、明示はされていなくとも誰しもがそのことに気づいている、と西村さんは言います。

 

タレント植木等さんの言葉に衝撃を受ける

西村さんが20代半ばの頃、たまたまつけたテレビで話す植木等さんの言葉に衝撃を受けたそうです。植木等さんの言葉。

 

『芸人、コメディアンいろいろなことをしてきたし、仕事にも恵まれてきた。だけど60歳を過ぎてこれから何をして生きていけば良いのかわからない』

 

植木等さんのようにひと仕事をなしたように見えて、本人もなした感覚があるだろうと思われるひとでもこのように感じるのか…

 

その当時、西村さんは『60歳になってもまだこの悩みは終わらないのか…』とショックを受けたとともに、『これは一生続くものなのだ』という救いも感じたとのことです。

 

 

求めているものは<今生きている>という経験

 

講義の中で紹介された<ジョセフキャンベル>という神話学者の方の言葉です。

 

人々はよく我々みんなが求めているのは生きることの意味だと言いますね。

でも本当に求めているのはそれではないでしょう。

人間が本当に求めているのは<今生きている>という経験だと私は思っています。

  

<今、自分が生きていると実感できることを求めている>

 

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自分をこの社会で生かして生きていくということが一生をかけての大仕事なんじゃないかと感じる。<今生きている、死んでいない状態>というのは価値観を超えた事実としてある。生きているのに関わらず死んでいるようであったり、働くことを通じて殺してしまうようなことはあってはならないこと、と西村さんは話します。

 

いきいきという言葉には生きるという言葉が二回登場します。生きる、その上に何かが生まれる瞬間のことを<生き生き>と呼ぶのではないか。いい仕事とは、<人をより生きている状態にする働き>のことを言うのではないでしょうか。

 

これからの仕事について考える

 

これからの仕事について考えたとき、職能で考えないということが大切なのではないでしょうか。職業でもその人によりピンからキリまであるので、職業では何も保障されない。

 

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美容師になりたい、と思う人がいるとする。美容師になりたい、という思いの裏側にある<どんな美容師になりたいのか>には、それがなりたいものであるかを保証できるものではない。もしかしたら、本当はスタイリストの方がフィットする場合だってある。

 

<どんな>が重要になるのではないか。

 

どんな、をはっきりさせながらそのことに接近していく。もし自分が八百屋になりたいと思っていなくても、すごく惹かれる人が八百屋だったらそれは魅力的に感じるのではないだろうか。

  

どこで、誰と、何をして生きていくか

 

どこで生き、誰と生き、何をして生きていくのか。そのことを個人で考えすぎている。まわりの人と一緒に、自分のことを考えても良いのではないだろうか、という西村さんの問いかけ。

 

自分は自分の話していることは知っているが、話している時の様子がどんなふうかは自分は知らない。まわりの人の方が知っているということ。

 

どこで、誰と、何をして生きていくか。

 

<何を>にウェイトを置いてより先鋭化していくとまわりにいる人たちを利用価値で見てしまうようになる。そのため実現のためにはチームのメンバーの能力が足りない人は交代する必要が出てしまいます。

 

<誰と>にウェイトを置いて生きていくということは『夢を形にする』のではなく『出会いを形に』という思考。そのような思考で作られたチームには無理が生じることがなく、そのチームだからこそできる有機的な仕事を作っていける。

 

この土地だから、地形だから、植生だから、日照時間だからこそできる仕事。自分の願いやまわりに誰がいるかを掛け合わせてつくる仕事は強度が強いものとなる。

 

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<その場に居合わせる人が全て方式>という考え方があります。

 

この組み合わせでどんなことができるのか、というところから仕事をつくる。

ある目的のためにベストチームを形成しやすいのは人口やサービスの分母が多い都会です。小さな場所でどれだけグッドアイディアを出せたとしても『じゃあ誰がやる?』という部分でつまづき、アイディアが失意を生んでしまうことになります。

 

ないものねだりをせず、人を交換可能にしないという方向性。

 

これからの人口減少が進む社会において、今いる人で何ができるか、を考えることができる技術とセンスは重要ではないでしょうか。

 

 

おわりに

約4時間に及ぶ今回のローカルベンチャースクール。直後は話を聞いたその熱を直接受けて熱にうなされたような状態でした。こうやってもう一度、内容をまとめていくことで自分なりに飲み込めたもの、まだ腑に落ちていないこと、そう言ったものが明らかになっていきました。

 

かく、話す<外在化>することで何かが始まる 。

 

 こう、講義の中で話した西村さんの言葉の通りでこうやって記事にして<書いて>いくともう少しだけ考えを深めることができたのではないかと思います。

 

かく、話す、やってみることには強力な作用がある。適当に喋っていること、心から思って話すことをすると運動が始まる。『こう言えばよかった』と思うことは話さないとはじまらない。自分の外に出してみると何かが始まる。頭は矛盾したこと、曖昧なことを曖昧なまま置いていける場所。

 

講義の中で西村さんが話した言葉。本当にその通りだなぁと実感。割と一人で何でもやっていくことが多いと思う自分の仕事や性格でしたが、もう少しまわりと話す、聞く、やってみることについても考えていこうと思います。

 

ブログで4,000文字を超えたのは初めてじゃないかなぁ。すごく頭を使ったせいか今すぐにビールが飲みたいです。

 

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懇親会会場である中川町の居酒屋十一さんに貼られていたチラシ。確かになぁ、ふむふむとか言いながら用を足しました。

 

 

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

自分をいかして生きる (ちくま文庫)

なんのための仕事?

わたしのはたらき

 

今回のローカルベンチャースクールに寄せて、西村佳哲さんの著書を購入し読み更けました。興味深い内容ばかり。興味のある方は読んでみてください。

 

前回の記事はこちら

【ローカルベンチャースクール】西粟倉村から学ぶ地域でつくる仕事のはなし