【舞台は春の終わり、遠別町東野】
このおはなしの主人公〈野村治郎兵衛:じろうべぇ〉。治郎兵衛さんが入植した通称、東遠別三十六号線(旧字名ペウレプ・ウエイベツ:現在の東野集落)は遠別川沿いで吊り橋はありましたが、丸太柱が朽ち折れ、ワイヤーが川面に垂れ下がったまま通行できない状況でした。
集落の結婚式
春の蒔付も終わり、集落の人たちは一安心。隣の集落では結婚式が始まりました。昔は家柄に合わせた立振舞いや披露宴がそれぞれの自宅で行われます。
当日招待されなかった集落、近隣の人たちは嫁さんを覗き見にその家をぐるりと取り巻いて「めんこい嫁だ」「めったくない嫁」と喧々囂々の賑わいが続くのです。
宴も酣、座敷から手拍子に合わせた祝い唄が聴こえる頃、治郎兵衛さんをはじめ男連中が「樽入れ」を始めるのです。
樽入れの酒
空の一升徳利を三本ほど組み合わせ、新しい紐で結び「おめでとうございます」と大声で家の中庭の小縁に差し出すと、家族の人たちも川の一升徳利になみなみ酒を入れ肴もつけて戻します。
「樽入れ」の仲間は大喜び。庭先で早速祝酒を酌み、歌の一つや二つ唄ってそのまま近くの小屋でどんちゃん騒ぎ。夜のふける頃、みな泥酔状態になるのでした。
翌日気づいた違和感
あくる朝、目が覚めた治郎兵衛さん。久しぶりの酔いに満足です。千鳥足で心くすぐる川風に吹かれ、吊り橋を渡ってきた昨夜のことを思い浮かべました。
「はてなぁ、、、?」
治郎兵衛さんはふと、背筋が寒くなるのを感じました。
吊り橋は垂れ落ちたまま、人の足で渡れる川ではありません。治郎兵衛さんは立派に架かった吊り橋を渡った記憶しかないのです。
あの立派な吊り橋は、いったいどこの吊り橋だったのか。それとも大蛇が吊り橋のかわりに遠別川に横たわっていたのか。
治郎兵衛さんは、不思議な吊り橋のことを時々思い出しては話してくれるのでした。
現存している吊り橋
物語の吊り橋と同じものを指しているのかはわかりませんが、今も残っている吊り橋があります。以前は10年毎に補修していたようですが、今では使われていないようです。渡ってみようと思いましたが床板が剥がれ、危険な状態だった為びびって渡れずじまい。
このお話は明治30年に越前から入植した〈野村治郎兵衛さん〉が体験したお話。
〈引用元:えんべつ民話と伝記 小山踏尾著〉