inakalife-いなかくらし-

北海道の道北でいなかくらし。スラックライン、地域おこし、田舎暮らし、カメラ、RAW現像、デザイン、イラストについて。

えんべつむかしがたり~60年以上住んだ土地を手放す決意~

f:id:iden0911:20140908110731j:plain

「自分たちで建ててから60年以上住んだ家。引っ越しなんて初めてだからわからん。」

 遠別町の中心から車で約10分ほど離れたお宅に伺いました。箪笥を10個粗大ごみに出したいという相談。私たちの活動の一つであるリサイクル活用できるものがあれば、と思い声をかけるとタイトルの一言。こんな感じでやり取りが始まりました。詳しくお話しを聞いてみると旦那様が先立ってからはおひとりでこの地で生活しているとのこと。遠別町は風も強く積雪多い地域、しかも町から少し離れた集落地。心配したお子さんから「一緒に暮らさないか」と言われて雪が降る前に、と今月この地を離れる決意をしました。

「旦那や家族の思い出の地」「慣れ親しんだ町」「毎日働きに出た農地」「一人で生活し続けるのは不安」「こどもと一緒に生活できることの喜び」「こどもに迷惑をかけてしまうのでは、という不安」その胸の内には様々な葛藤を抱いていることでしょう。生まれて初めて行う引っ越し作業は思うように手が進まない、と照れ笑いを浮かべながら話します。

「なにもかも持ってくわけにはいかねぇから、家具はほとんど捨てて、飾っている写真は牛舎に置いておくんだ」

先祖が写った写真。大きな写真は迷惑になるから、ととりあえず牛舎に保管。

家の整理をしていると、当然のように過去の思い出がよみがえってきます。当時の生活は牛と馬・鶏を飼い畑で作物を育て、馬を人足の代わりに貸して少しばかりの賃金を得る。自給自足に近い生活を送りながら3人の子を持って育む毎日。今は旦那さんが先立ち、3人の子も自立しおばあちゃん一人この町に住んでいます。

 「なにもかも持ってくわけにはいかねぇから、家具はほとんど捨てて、飾っている写真は牛舎に置いておくんだ」

お子さんのお宅に同居する際に今あるもの、すべてを持っていくわけには行きません。この家に嫁入りした時に持ってきた箪笥、化粧台など思い出深い家具はこの地で処分することとなります。結婚祝いで貰った牛の写真や先祖の写真、一度行ってみたい場所として20年以上とっておいた雑誌の切り抜きなど、想いがこもっていないものを探す方がはるかに難しい、半世紀を超えた時間を過ごした家を離れる壮大な引っ越し準備。

長年使い続けた薪ストーブ。今年の冬から先、もう薪がくべられることはありません。

結婚祝いで貰った牛の写真。

作業の合間、おばあちゃんが語り始めました。

「昔、裏の川が鉄砲水で溢れた時に馬が川に持ってかれた。家族だと思って一緒に暮らしていたからあん時はつらかったなー。」

少し涙ぐみながらそう語ってくれました。自然環境の厳しいこの土地で60年過ごしてきた経験や物語は言葉では決して表せないドラマがあったのでしょう。おばあちゃんから生活の物語を聞きながらふと「もし自分がこの話を聞いていなかったら、この町からこの生活の物語は誰も語れないものになるのか。」と考ると、感慨深いものがこみ上げてきます。60年以上綴られた生々しくも温もりある物語。

 「この土地、町から人が去る。」

過疎地域に住んだ宿命。今までも、そしてこれからもこういった場面には何度も出会うかもしれません。今現在、私にはこの地域を復活させられるだけの知恵も実行力もない。それでも郷土史には残らないような小さな物語を拾い上げることくらいはできます。それを紡ぎ、繋げていくこと。この活動にどんな価値があるのか今はまだ図ることはできないですができるだけ多くの物語を残していきたい。自己満足の活動ではあるけれど、相当自己満足できるから良しとしよう。

お話を聴かせてくれたお礼に、家を背景に飼っている犬と2ショットで写真を撮りました。現像してお渡しすると「みったくねぇ顔してんなー。」と照れ笑い。

f:id:iden0911:20140901161431j:plain

今日は中秋の名月。おばあちゃんにとってはこの地で見る最後の満月。どんな気持ちで満月を眺めるのでしょう。長年住んだ地域を離れ、新たな地域で生きていくことを選んだおばあちゃん。幸せな生活に繋がるようこの地からお祈りしています。

(個人情報の保護の為、顔は隠しています。)

 http://instagram.com/p/dTCyraOn_h/

 写真は昨年の中秋の満月。一眼レフ持ちたての頃。